クライアントかそのお客様か? どちらを考えたらいいの?

デザイナー交流会でMさんからこの質問をいただきましたが、多くのデザイナーにとって、「あるある」だと思います。

 

Mさんはエステサロンを開業される女性のクライアントからチラシのご依頼を受けました。

 

クライアントの要望は「アジアンな雰囲気で高級感を出したい」。

 

Mさんとクライアントの2人で打ち合わせを重ね、黒いアジアンテイストの蔦の模様を背景に、金色の文字をポイントにあしらった重厚感のあるチラシデザインを作成しました。

 

クライアントにデザイン案を見せると「イメージ通り! ステキ!」と大変喜んでいただいたとのこと。

 

それから数日後、クライアントから連絡があり、「友人でもありお客様でもある人にチラシを見せると、暗くて陰気臭い。もっと“癒し・和み”を感じさせるように、白っぽく明るい方がいいと言われた。デザインはとても良いのだけど、デザインを修正して欲しい」とのこと。

 

Mさんはクライアントと何度も打ち合わせをし、「クライアント本人も黒いアジアンテイストでデザインを作成することを納得していたのに」と、困惑してしまいました。

 

これを「ちゃぶ台ひっくり返し」と私は呼んでいます。

 

確かに、単純に黒から白に変えるといえども、コンセプトがそもそも変わってしまいます。

それにともない、使用するフォントも変更しなければならず、見出しや本文の内容もデザインにそぐわなくなってしまうかもしれません。

 

また、掲載する写真も変更することもありえます。これはずいぶん重い修正です。

 

今後そのような状況にならないために、「デザイナーはクライアントと、そのお客様のことまで考えてデザインを作らないとならないのでしょうか?」というのがMさんからの質問です。

 

私の見解からすると、これは「NO!」です。

 

なぜなら、クライアントのお客様を最も知っているのは、クライアント自身だからです。

 

クライアントのお客様のことをMさんが知るとなると、サロンに潜入取材しなければならないほど時間と手間を要します。

 

だからこそ、クライアントの話を聞いてデザインを作成するのです。

 

とはいえ、クライアントのお客様のことは全く考えなくてもよいのか?となると、それも「NO!」です。

 

クライアントの深い想いを知った上で、クライアントとそのお客様の両方の目線、つまり、全体を客観的な視点で見て考えられるのはMさんだけです。

 

ということで、クライアントの話を聞いて黒いチラシを作ったのは私としては間違ってないと思っています。

 

友人やお客様にデザインを見せて感想を聞きまくるというクライアントは実際によくいらっしゃいます。

 

クライアントと頭を突き合わせて考え抜いたデザインにもかかわらず、何の責任も取れない人の意見を真に受けて大きく変更するのは、危ない状況です。

 

それでも今回のように、一度「暗い」という感想をもらってしまうと、その考えは変えることができず、残念ながら修正せざるえません。

 

修正する際には、「ファイナルアンサー」のように、「修正しますが、経営の責任のない方の意見でも本当に大丈夫ですね?」と確認して対応するようにしています。

 

このような「ちゃぶ台ひっくり返し」に合わないために、私自身がおこなっている対策は、振り幅の大きい異なるデザインとして最初jからもう一案作っておくのです。

 

Mさんも既にこの対策を取っているやかもしれませんが、私の実例を挙げます。

 

黒い案がメインであるなら、白い案も作るのです。クライアントとの打ち合わせの中には出てきませんでしたが、「捨て案」として白い案を作っておけば、黒い案と比較することができ、当初の黒い案がより引き立ちます。

 

しいて言うなら、黒と白に加え、もう一案として、カラフルな捨て案を入れておくと、さらにひっくり返りにくいでしょう。

 

時々、黒い案ではなく白やカラフルな案が選ばれることもありますが、ちゃぶ台ひっくり返し対策のためだけに、振り幅の大きな捨て案をわざわざ作るのです。

 

手間はかかりますが、ひっくり返された時にやるせなさを感じながら修正することを思えば、こちらの方がよいのではないでしょうか?

 

また、この対策を行うことで、クライアントからすると「ここまで考えてくれたんだ!」という感動が生まれ、信頼度が増し、次の仕事に繋がります。

 

ちょっと計算づくですが、今後の営業のためにもオススメです。

 

そして最後に、語弊を恐れずに言うと、 Mさんのクライアントのように友人やお客様の意見で揺らいでしまうのは私のこれまでの経験からすると、これから起業するというビジネスの経験値が浅い女性が圧倒的に多いと思います。

 

業種としては、エステサロン、カフェ、マッサージ、趣味の教室、ヒーリング系などです。

癒しとセットになった業種が多いともいえます。

 

同じ業種でも、中には揺るがない方もいらっしゃいますが、そういった方は法人化をされていて2店舗、3店舗と広げていることが多いようです。

 

ビジネスの経験値、それに伴う自信や覚悟などとも関係があるのかもしれません。

 

あくまでも今回は私の見解ですので、皆さんのやり方や考え方とは異なるかもしれません。参考にしていただければ幸いです。

 

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